東京高等裁判所 昭和34年(う)1705号 判決 1960年2月24日
控訴人 被告人 平良トシ子
弁護人 深沢貞雄
検査官 倉井藤吉
主文
本件控訴を棄却する。
当審における未決勾留日数中百八十日を原判決の刑に算入する。
理由
進んで原審が本件殺人罪について有期懲役刑を選択し、これについて自首減軽を行いながらなお且つ懲役四年の刑を科したのは、所論の如く自首減軽を行いながらその実は減軽を行つていない違法があると認むべきか否かについて按ずるに、元来或る有期懲役刑について自首減軽をするということは、該法定刑の最高限と最低限の各二分の一をそれぞれ減じて処断刑を算出し、その範囲内において具体的科刑を定めることをいうのであつて、右処断刑の範囲内の科刑であれば、たとえ本来の法定刑の最低限を上廻る場合であつても、これを目して違法であるということを得ないことは多言を要しないのである。今これを本件についてみるに、原審は、被告人に対し殺人罪の所定刑中有期懲役刑を選択した上、自首減軽すべきものとしたのであるから、その処断刑の範囲は、本来の法定刑の範囲である三年以上十五年以下から一年六月以上七年六月以下となつたわけであつて、原審はその処断刑の範囲内で懲役四年の刑を科したのであるから、これを目して自首減軽を行いながらその実は減軽を行つていない違法があるなどという非難をすることはできない。
(その他の判決理由は省略する。)
(裁判長判事 三宅富士郎 判事 東亮明 判事 井波七郎)
控訴趣旨
第二点原判決は被告人は自首にかかるものとして刑法第四二条第六八条第三号を適用しているが、本来裁量減刑の場合である自首減軽について減軽前の法定刑の範囲で処断する場合には同法第六八条を適用する何等の必要がないものであつて、仮りにこれを適用するも全く無用の所為に帰するかあるいはその実は軽減しない違法があると言わなければならない。しかして原判決は法定刑の範囲である懲役四年に処しているものであつて原判決の法律適用はその実同条所定の減軽をなしていない違法があると云わなければならないと思考します。